learn

新潟市 潟のデジタル博物館

潟の生態

豊富な生き物たちが生息する「潟」

image_seitai1

 潟には、陸域や水域だけでなく、陸上から水中にかけての水陸移行帯、「水辺」空間があります。ここでは、ヨシ群落やマコモ群落が陸域と水域の橋渡しをしています。そして、水深の浅いところから深くなるにつれ、抽水植物群落、浮葉植物群落、沈水植物群落と続きます。陸上から水中にかけて多様な植物がすみ分けているこの水辺の空間は、潟に生息する多様な植物・動物にとって格好の生息地となっています。

湿性遷移

水辺の湿性林とヨシ群落がある程度で抽水生物もほとんど見られません。
水辺の湿性林とヨシ群落がある程度で抽水植物もほとんど見られません。
堆積が進んで、抽水植物、浮葉植物、沈水植物などが進出するようになります。
堆積が進んで、抽水植物、浮葉植物、沈水植物などが進出するようになります。
水深が浅くなり、陸化がかなり進行します。植物相はもっとも多様な段階です。
水深が浅くなり、陸化がかなり進行します。植物相はもっとも多様な段階です。
地下水からの供給もとだえ、雨水だよりの高層湿原を経て、最終的には草原になります。
陸化がさらに進行し、最終的には草原になります。

 潟のような広い水辺空間は、時間が経つにつれて水深が浅くなり、やがて湿地、草原へ移り変わっていきます。これは、潟岸の浸食や崩壊、外部から流入する土砂、潟内部で生産される生物の遺骸などによって堆積物が増加し、潟底に堆積していくためです。
 ある場所に生育・生息する生物種集団が、自然に移り変わっていく現象を「遷移(せんい)」といいますが、上記のように、潟や湖など水のある場所から始まる遷移を「湿性遷移(しっせいせんい)」といいます。

潟における人の営みと潟の環境

昔のヨシ刈りの様子
写真1: 昔のヨシ刈りの様子 撮影:古俣近建氏

 昭和の中頃まで、潟端に住む人々は、水辺のヨシを刈り、屋根草や壁の下地、ヨシズの材料として利用していました。この「ヨシ刈り」は、ヨシを刈取り潟外へ排出することで、ヨシが吸収した窒素やリンなどの栄養塩等を排出し、潟の水質の浄化に大きな役割を果たしていました。
 また、鳥屋野潟においては「ベト」と呼ばれていた潟底の土は、多量の有機質(植物腐植体)を含み、肥料効果の高い泥でした。昔の人々はこれを、稲作をする上での肥料や苗床として利用しました。ベトの利用は肥料と共に、低湿地の干拓土やアゼ作りにも重宝したそうです。この潟底の泥をかき揚げる「ドロ揚げ」は、潟底に溜まった富栄養化の原因物質の除去により潟の浅底化を防ぎ、湿性遷移を止めることにつながりました。
 過去、新潟市内の潟で行われていた人の営みは、潟の湿性遷移を抑制し、潟の環境も維持しつつ、多種多様な生物を育む水辺空間をつくりだすための重要なものだったのです。

里潟

写真2:佐潟の風景
写真2:佐潟の風景

 里地里山とは、原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域のことです。農林業などに伴うさまざま人間の働きかけを通じて、里地里山の環境は形成・維持されてきました。里地里山は、特有の生物の生息・生育環境として、また、食料や木材など自然資源の供給、良好な景観、文化の伝承の観点からも重要な地域なのです。
 新潟の「潟」は、潟に対する人々の関わりによって物質循環が維持され、多様な動植物が生息・生育する豊かな湿地環境が保たれるとともに、人々の暮らしや文化、景観と深くかかわり、自然と人が共存する潟、つまり「里潟」と言える場所でした。
 現在、かつての人々と潟との関わりは変化しており、潟に対する人々の直接的な関わりは減っています。それでも、潟環境を保全する福島潟のヨシ焼きやヒシもぎ、佐潟の潟普請やヨシ刈りなど、生活様式は変わっても様々な人々が潟にかかわって活動を展開しており、かつての生物多様性豊かな「里潟」の面影が残されています。新潟の「潟」は、都市と自然が隣り合い共存する、たぐいまれな環境となっています。

【参考文献】

沖野外輝夫(1997)3生物相の変遷.アーバンクボタ36、久保田鉄工株式会社、20-41
沖野外輝夫(2002)『新・生態学への招待 湖沼の生態学』共立出版
卯田強(2009)「改訂版 福島潟のおいたち」湖研究会(新潟大学理学部自然環境科学科卯田研究室内)
佐野静代(2008)「里湖」研究の意義―水辺の「二次的自然」をめぐって―.滋賀大学環境総合研究センター研究年報vol.5 No.1 31-37
只木良也(1997)「遷移と森林生態の保全」森林科学20:37-40
新潟市(2012)「にいがた命のつながりプラン―新潟市生物多様性地域計画―」新潟市
日本陸水学会(編)(2006)「陸水の事典」講談社
野崎健太郎、村瀬潤、山田佳裕(2002)沿岸帯研究の意義.陸水学雑誌、63:221-223
宝月欣二(1998)『湖沼生物の生態学 富栄養化と人の生活にふれて』共立出版